Legend of TECC でんつうネタ話

黒板消し事件

1.思い立ち 2.考察と製作 3.儀式と完成 4.実戦配備
5.実戦配備1-2 6.電通ピンチ 7.体育教官室 8.総括

1.思い立ち
電通では、一般に以下の事件に係わるその品物を単に「黒板消し」と呼称して表現していました。

時代は昭和56年のことです。
32期のIは登美高へ入学して、憧れの電通への入部も果たし、電気工作を何か、 と考えていたのですが、自宅にある工作集に、電池の電圧を上げて、 人が触るとビリッと感電させると言う回路図が出ていました。どれだけのショックかは、 実際に中学生時代に作ってみた時に体験済みで、ちょっとびっくりする位のものでした。 部品点数も少なく簡単だったので、再度作ってみました。 2回目になると基板も、より小さく出来ました。普通切手6枚分位だったでしょうか。

部室へ持って行って、トランスの出力側を触らせたり触ったり、遊んでいたのですが、 ふと、これを何かに入れ込んでしまえばもっと面白い事になるな、と思いつきました。

思い浮かんだのは・・・教室の「黒板消し」でした。

当時の登美高の黒板消しは、オレンジ色のプラケースの付いたものが大半だったと思います。 部室の並びの、2号館3階のIの所属する1-2か、 1-1のやつを拝借して来たと思います。部室のものだったかも知れません。

よく見ると、周りにはプラケースを止めるための錨が打ってあるではないですか。 塗装の剥げた所にテスターを当ててみると、ちゃんと電気が通ります。 チョークを落とす柔らかい所に、何ならちょっとスポンジ抜いてでも、 ここに埋め込んじゃえば完璧じゃないか!はやる気持ちを抑えながら、学校の備品であることや、 とんでもない悪戯なのを忘れ、その頃、他の先輩等部員も私のドリームに気が付き、 部員一丸となって職人となり、部を挙げての製作に大いに盛り上がったのです。


2.考察と製作
 先ずは鋲を抜きます。頭の傘と針とのつなぎ目がやわく、抜いている時に幾つかは壊れてしまいました。 鋲の頭と針の部分が取れてしまうのです。

プラケースを外すと、意外な事に、カマボコ板の様な木板が現れました。 それに鋲でチョークを拭く布が打ち付けてあったのです。

 ちょっとスポンジを抜こうかなあと、思っていたら、 傍らでは、Mさん達が何と既に木板の真ん中をドリルでくり抜いている所でした。 ひえー、そんな事、していいの?新人の私には、まだまだ少し刺激が強かったのですが、 スポンジ抜いた位では、うまく入りそうになかったし、木を削れば軽くなり、 基板を埋めて丁度元の重さ位になりそうだな、などと考えている内に、 罪の意識はどっかに行ってしまいました。

 穴開けに平行して、私は感電部となる、鋲の塗装をきれいにヤスリで磨き落とす作業に入ります。 よく見ると、GETして来た黒板消しは幾つか錨が抜け落ちていました。 これでは接触する部分が小さくなり、感電しない事も出て来そうなので、 先ずは別の黒板消しから抜いて来て本数を揃えます。
そして、針の先まで濃緑色だった鋲は全身、ピカピカの銀色になりました。 これで幾らか半田ののりも良くなるかも知れません。 教室で使っているのも、磨耗で随分ピカピカしてたので、違和感はありません。
基板上のトランスの二次側の2線を黒板消しの長辺側左右にそれぞれ配線し、 短辺側の1個づつの鋲はダミーとして、打っておく事にしました。これで普通に持てばビリッと来る筈。

 作りながら、いろいろアイデア、工夫が出て来るものですね。 そして、悪い事をしているのですが、皆ですると無茶苦茶に楽しく、夢中にさせられました。


3.儀式と完成
 何回かの拡幅工事の末、大穴の空いた木板が完成。恒例?の電通での儀式です。
「JA3YSJ」「DENTSU」他、各人のサイン等を、木板に、マジックでこれ見よがし、 且つ大胆に記入。実はこれは後に問題になります。

 組み込みには技術を要しました。基板を木板に入れ、仮にプラケースをはめて、 一旦、鋲を打ち込みます。プラケースと木板の間を強引に開き、各辺の鋲を電線でつないでいきます。 ここからは自分も電撃の危険をはらんだ作業となります。
完璧を期するため、先輩の判断で、電源のオンオフは、電池の抜き差しでする事になったからです。

鋲への配線の半田付けは、電線を巻き付けて強引に付けるので若干、 半田が膨らみます。再度木板に鋲をはめ込みますが、幾本かの鋲はここでも壊れて、 再度、別の鋲を調達しました。半田の膨らんだ分も板に叩き込み、 仕上げにダミー鋲を打ちます。

 完璧な電通超特製黒板消しが出来ました。スポンジが入っているからか、 振ってもそれ程、音がしません。重さも全く違和感がありません。電池は、 ほぼ真っ新の、006Pを入れたと思います。予想外のものからの電撃は強烈!
とても内容の濃い、その日の部活でした。


4.実戦配備
製作の日から明けて、どう言う風に実戦配備されるのか、何となくのうちに、 教室の授業中に黒板へ置いておくと言う事になり、最初の言い出しっぺの、 I所属の1-2へ配備か、と緊張していると、先ずは先輩の教室からとの事。
いろんな意味で上下関係のはっきりしたクラブでした(^^;)。

クラスメートにも説明し、クラスを挙げての悪戯となります。先生方の反応も、 「電撃を受けているのに、受けていないふりをする方」(「先生、びりびりこないのー」と言われるまで我慢されてたらしい)、 「静電気による現象と決め付けてしまい、早速その解説を始めちゃった物理の先生」、etc、 先生ごとにそれぞれいろんな反応があったそうです。 ちなみに静電気による物理現象と言った先生は、当時電通の顧問をしておられましたので、先輩から話を聞いて、余計おかしかったものです。

電撃は割りと痛いものでしたが、その場で事件が終わっちゃうところが、 うちの学校らしい、のどかな所だったのかも知れません。


5.実戦配備1-2
 午後から、いよいよ私の所へブツが来ました。緊張します。でも、楽しみ。
クラスの者に触らせたりしながら説明。バカ受け。 次の授業はリアクションに大変期待のもてる数学のU山先生。クラスは嫌が上にも盛り上がります。 クラスメートは皆、にやにや、ドキドキ。

 先生は、幾つかある黒板消しの手近なものを使って行きます。そして、ブツを手にして、 字を消そうとしたその瞬間、「おああっ!」の叫び声と共に、 黒板消しは教室最前列のクラスメートの机めがけて飛んでいったのでした。
「な、何じゃ、こらあ!」もの凄いリアクションでした。クラスメートは大喜び。 厳しい授業中にちょっと長めの、つかの間の休息を入れる事が出来ました。

 誰が作ったか、とか、いろいろ雑談があった後、先生の「お前ら、暇やのう」 の言葉を最後に授業に戻りました。充電式と思っていた先生は、その後も何回か感電しながらも、 短辺側の電撃の来ない所をつまみながら、不自由そうに黒板を消していました。 やっぱり何か平和な結末でした。

 しかし、この後、電通を揺るがす大事件が、うちのクラスで起こってしまいます。


6.電通ピンチ
 あのU山先生を驚かせた興奮で、クラスは大変な盛り上がり。 クラスにはいろんなヤツが居りました。油断大敵でした。

 禁じ手の、うちの担任のO賀先生に仕掛けよう、と言う方向へ流れは行ってしまいました。 グローブみたいな手(自称モミジの様な可愛い手)で、バケツを被せた熊の様なO賀先生は、 体育の先生でした。普通、そんな事するかあ、と思うのですが、 今更集団心理と言うものが恐ろしく感じられます。私もこれまでの経緯から、 大した事にはならんだろう、と言う気になっていたのも事実です。

 かくして、ホームルームの時間になって、体育教官室から、先生は来られました。 あの兼業農家として鍛えた大きな手では、感じないのではないかと言う推測もあったのですが、 熊でも電気は感じるらしく、無言で「ぼっとり」と黒板消しを落とされました。 またまた、クラス騒然、大爆笑。私も笑っていました。

 しかし一緒に笑っていた先生は、流石に冷静でした。「良く出来とるねえー」とお言葉を頂いた時は、 Iも誇らしく思う余裕があったのですが、裏切り者のクラスメート達は電通のIを生け贄にしました。 「お前、電通だったな。クラブでやったのか」(げっ、まずい)「これは学校の備品だ、 それを壊してはいかんじゃないか」(そう言えば罪の意識が最初はあったんだ)にやにやしながら、 クラスメートの手前からか、厳しいお言葉。そして「どうしてやったのか、 はっきり聞かせてもらう。中身をきれいに出して来て、見せろ。体育教官室まで来なさい」 ががーん。中には「DENTSU」とか、先輩方その他部員のサイン等がぎっしり。
まずー。大変な事になってしまいました。


7.体育教官室
 ホームルーム終了後、すぐに部室へ。先輩方に事情説明。部室内にも嫌な空気が漂います。 某先輩からの指示は「クラブは一切関与していないことにしろ」 「お前が勝手に部室の道具を使って作ったことにしろ」「部活停止は嫌だ」 「本体はクラブの名前とかいっぱい書いてるから、持って行くな」 「基板はもったいないから、偽物を作ってやるから、それを持って行け」 等と今から考えれば当たり前ながらも随分な注文ですが、自分の失敗ですし、 その通りに、本当に偽物の基板を持って体育教官室へ行きました。

 教室での雰囲気とは違って、非常に怖い思いをするかと思っていましたが、 O賀先生は、ちょっと優しくなっていました。「先輩はどう言えと言っていたか」 等と言う意地悪な質問をかわし、黒板消し本体がないのは、「もう元に戻して教室に返した」 と言い張り、「クラブの道具を使って自分一人でやった」、 「中に入っていたのは、この基板である」と、ガラクタを半田でつないで検証出来ない様に、 部品にニッパーを入れて壊してある事を装っている、先輩の力作のゴミを先生に渡しました。 今から考えると、先生もちょっとどんな仕組みだったのか見せてもらいたかったのだと思います。

 トトロがドングリの入った包みを持つ様に摘んで暫く眺めていた先生でした。
ひやひやものです。ちょっと、私に感電させるふりをした先生の挙動に驚いた私は、 うまくびびった形に見えた様に思えました。だって、先生、満足そうな顔してましたもん。 今から考えれば、職員室で先生方同士の会話で、I個人でやったかクラブを挙げてやったかなんて、 簡単に判りそうなものですが、Iは、くさい芝居を打つだけ打ちました。 一通りのお説教を簡単にされ、一発のげんこつを頭頂部に有り難く頂戴して、 ゴミまで返してもらい、無事、部室へ奇跡の生還を果たしました。 それだけ。

 クラブは守られたのです。


8.総括
 クラブへの災厄は無事に回避されましたが、まだ配備していなかった部員や、 まだやりたかった部員からは不満の声があがっていました。でも、再犯は、部活停止処分がまず来そうなので、 黒板消しは、それから、鋲のピカピカした完璧な普通の黒板消しに戻って、 教室へ帰っていきました。だから多分、今もどこかの教室で、他よりちょっと軽い、 鋲の光った黒板消しが、中にOB達のサインを内蔵したまま、 こんな事件の主人公とも知られずに、ひっそりと使われているはずなのです。

なお、「黒板消し」事件は、あんまり面白かったので、翌年にも、培われたノウハウ を生かして、新たにまた製作された様に思います。

学校の備品を改造して、また授業への妨害にもなった本事件ですが、 この事件は私達の世代の部員がした悪戯で、他の電通関係者に責はありません。


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